新宿乞食 6

区役所勤務の彼いわく、水を売る会社社長は、

日浦サイトを運営した凄い男・日浦裕次をゲット

したという自慢話を仲間に話したそうだ。三井の

おばさんや千里眼その他にである。千里眼たちは、

広大なオーラーを持つ日浦を透視したのだという。

だが、まだ目覚めていないことを知っていた。

だから日浦を捕獲して利用すれば、素晴らしい

ことができると期待したそうだ。しかし、彼らの

意図や動機を見破られるかも知れないとの恐れも

あったそうだ。だから騙して窮地に追い込み、

お金で縛ろうと考えたそうだ。千里眼たちは、

どんなに窮しても、お金では、決して動かない

日浦の本質を見抜けなかったのである。

 

水を売る会社のM社長は、日浦がマンションの

居住権を主張して、マンションを出て行かない

だろうと心配していた。そのことは、三井の

おばさんが、そう言ったらしい。

おばさんにしてみれば、マンションを追い出して

もらい、自分が抱え込めるのだと勘違いしている

からだ。日浦がマンションを出たなら、そこには、

M社長お気に入りの瞳ちゃんが住むから、早く出て

欲しいのだろうね。

 

三井温熱へは行けない。このマンションにも居ら

れない。また住み着く気もない。やはり山中へ

断食死瞑想に行こうと思い、日浦サイトの知人

たちに事情を話した。なにも助けを求めた訳では

ないが身体を放棄するとなれば、それを告げて

おかねばならない。千葉の女性は、わたしの

アパートに住んでくれと言い、自分は実家から

仕事に通うからと熱心に何度も電話をくれた。

それは、暑い夏の昼過ぎであった。

そしてまた、馬場にいる知人の医者は、千葉に

別荘を持っているから、そこに住めと言うが、

どこに住んだとしても、働かなくては食えない

のだ。年金なんぞ足しにならない。活路がもう

見えない。思うに仕事を求めたとしても、60歳を

過ぎたなら、ろくな仕事は無いだろう。もし、

あっても労多くして低賃金である。いつ倒れるか

知れないのだ。そのような貧しく老いゆく空しい

人生には、もう何ら価値は無いのだ。だから、

老いと苦とを引きずる老い先短い生よりは、

びしっとけじめをつけてから、速やかに肉体を

捨て去る方が遥かによい。なぜなら、それが新たな

身体を持った新たな誕生になるのだから。

過去に幾度も死線を超えて来たのは、肉体を

捨てきらない執着である。生きたくないという

のになぜ、生きようとするのか。ずっと長い

あいだ、この矛盾を抱えて来たのだ。

しかし、なぜか東京は新宿へ行きたいと思って

いたら、新潟から新宿まで運んでくれたトランス

ポーターのM社長が現れた不思議。だが、幾ら

社長の業務命令とはいえ、詐欺の片棒を担ぐことは

出来ない。たとえ飢え死にするとしても。

 

さて、どこの山へ行こうか。八王子・高尾山の

渓谷が良いのかな。行ったことないし。

 

いよいよ名水を売るM社長の会社を去る日が来た。

約束した日に必ずマンションを開け渡すから鍵を

取りに来てくれと日時を伝えた。

社長は、日浦がマンションを明け渡すことを絶対に

信じないといった。居座るのだろうと。そして、

どこへ行くかのかとしつこく聞くので、つい千葉の

別荘の話しをしてしまった。

その数日後、その医者から電話があり、おばさんが

突然電話をしてきて、別荘を貸さないことにした、

そう言った。彼はマインドコントロールされたのだ。

自分でも、マインドコントロールされてしまった、と

言っていた。

 

そして、いよいよ水を売る会社を去る日、M社長に

告げたこと、「赤松のセミナーでは、詐欺だから金を

返せという人が現れて、そうだそうだ返金しろと言う

全体の流れになるから信用を失うだろう。」そのように

伝えた。もちろん社長はそれを信じない。

後日、その通りのセミナーになり、セミナーを担当した

幹部は相談に来たのだ。

それから、どれくらいの日数が経ったのか知らないが、

西新宿へ個人相談に来た男性は、面白いことを言った。

彼曰く、「赤松瞳のセミナー中、詐欺だからお金を返せと

僕が言った。すると皆さんも、そうだそうだ金を返せと

言う流れになり、大パニック。水を売る会社は、弁護士を

たてて、セミナーを一切口外しないと言う約状を書き、

受講料の半額を返してもらいました(笑)」という体験談を

語っていた。

「君にそう言わせたのは、僕なんだ。」

「はあ!?」

「君がセミナーで体験した流れは、セミナーが開催される

よりも前から、僕がN社長に対して、その様に成るのだと

言ってあるのだ。」

「はあ~?」

「セミナーを受講した君達は、彼からマインドコント

ロールされたんだよ。」

「彼って、誰ですか?」

「彼は、彼だよ。」

「はあ~??」

「彼とは、僕のことさ。」

「はあ~??」

 

三井のおばさんからは、毎日のように、電話が鳴った。

そして、日浦が千葉の別荘に行けなくなったのは、

自分達の人を操る力だと自慢していた。そうかい。

そんなところへ、どうして日浦がのこのこと行くと

言うのか。馬鹿もんだね。

ついに千里眼のボスには、日浦を会わせなかった

おばさんは、日浦との縁を繋ぎたいためか、弟子を

連れてきた。千里眼のボスの弟子の彼は、赤松は詐

欺師だといいながら、出来の悪い同期だとも言った。

どこの、なんの同期生か?と聞けば、何も答えない。

詐欺学校の同期なのか?(笑)

確かに彼は、千里眼ではあったけれど、見間違いも

するレベルの低いモノであった。しかもその弟子は

自分で日浦に会いに来れないから、おばさんに引率

してもらってやってきたのだ。40歳を過ぎているのに、

お子ちゃまだね。千里眼のボスも日浦の光りが観える

からこそ、恐れをなしてか単独では、日浦に会えない

のだった。

 

引っ越しの僅かな荷を託すのは、信頼できる親友が

いたのだ。マンションを明け渡してから高田の馬場に

居る親友のガレージに僅かな荷を置いて、彼とランチを

食べながら言った。「もし戻らなかったら、荷の全部は

粗大ごみにして欲しい」と頼み、粗大ゴミの処理費用を

手渡した。

馬場の親友は、日浦の経歴を誰よりも知っているのだ。

彼は、目を赤くしながら語った。「同級生の中で、最も

出世した男は、お前だった。そしてまた、最も下落した

のもお前だった。自分の特約店から会社を奪われ、

起死回生をかけた八戸市でも大事件を経たことなどなど、

日浦よ、お前は、なんど死線を超えて来たのか?そんな、

お前には、生きろとは言えないし、しかしながら、山へ

行って断食死しろとも言えない。日浦よ、俺には言葉が

無いんだ・・・」そう言って泣いてくれた友人。

彼とのランチタイムが最後の晩餐みたいなものだった。

 

友人と別れてから一人になり、何処かのカフェに入り、

コーヒーでも飲んでから、向かう予定地は高尾の深い

山中であった。

予定した断食死瞑想を決して恐れてはいない。だが、

なぜか思い留まれと言うフーリングが湧くのだった。

そのフィーリングが湧くからこそ、新宿の乞食を体験

した理由でもある。学生時代の乞食よりも、老いた

年齢の乞食体験は気楽と言えなかった。1ヵ月も持た

ないだろうなと思った。路上での惨めな野垂れ死には

避けたい。やはり山中がいいだろう。

都庁のある西新宿、そしてまた、歌舞伎周辺にも路上

生活者がいる。

 

M社長の借りたマンションを出てからも、おばさんは、

しつこく電話をしてきた。それは、1年以上にも及ぶ

のである。それほどまでに日浦を欲しいと思うなら、

約束したお金を支払う人間でなければならないだろう。

自分の約束を果たさず、1年以上も日浦を求めること、

そのこと自体が普通の人で無いことを露わにしていた。

最近のホームページをみたら、日浦が開発した新型の

温熱器は掲載されていない。隠密に売っているのか、

それとも千里眼たちも、全てを盗む透視力が無かった

ということか。新潟から新宿へ来てもなお、紫蓮さんと

出会うのも、すんなり進展した訳では無いのだ。