新宿乞食 5

新潟の地から、流れ流れて、流転に流転を

繰り返し、飛んできたところは、新宿の

区役所勤務の彼から紹介されたお金持ちの処。

それは、千葉に本社が在る「三井温熱」という

治療院だった。浅草と他に店舗を持っていて、

いつも客は絶えない様子。人脈も幅広くて、

かなり儲かっていそうな雰囲気があった。

そこでは、入浴時に体を洗う取っ手のついた

ブラシに似た形の電気小手を使い、がん治療に

有効だと言う怪しげな文言の商品が使われ、

また販売されていた。

そう言えば、前回の日浦のセミナーでは、

「あ、わたし三井温熱の電気こてを買い

ましたけど?」という女性がいたけれど、

それはどうでもいいことだね。

 

この三井温熱、中野区の水売り会社は、実は

仲間同士であり、去ってゆく日浦を逃がさない

ために、区役所勤務の彼が、三井温熱へ引き

込んだと言う事が後になって知ることになる。

三井温熱は、待ってましたとばかりに日浦を

期待していたという。それを知らずに訪ねた

日浦の運命やいかに。。。

なんだか小説風になりそうな。それほどの

文才ないから急いで書きあげよう。

 三井のおばさんは、こてをふたつくれた。

「それ僕は、要りませんよ?」

「あのね、一つは体感用に使い、ひとつは

分解して、新しい商品を作って欲しいの」と

いうではないか。

「新製品の開発なら有料ですが?」

「もちろん開発費は払いますよ。」

「では来週には、設計図と仕様書を持って

くるので、そのとき300万円ください」

「そんなに安くていいの?承知しました」

 

水を売る会社は、日浦に給与を払わないと

言って月末給与の期待を裏切った。それは

給与を懇願させて、自分の奴隷にしようと言う

ケチな発想であった。この日浦が、いったい

誰の奴隷になると言うのか。

そしてまた、二週間後には、マンションを開け

渡せという。だから新製品の開発費300万円は

マンション退去に役に立つであろう。開発費は

安く言い過ぎたかな。。。

マンションに戻り、こてを分解したら、ただの

電気ヒーターであった。なんとダサい物だろう。

そう思い、画期的なモノを生み出した。本当に

活気的な新商品なのだ。

翌週の日曜日、千葉まで行って新商品のイラストを

見せて、機能と効用を説明した。おばさんは、目を

赤くして、「こんな!素晴らしい!これなら世界中に

売れるわ!」と感激していた。涙さえあったのだ。

そして、話しに聞いたよりも、予想以上に凄い頭脳

だねと興奮していたが、それを誰から聞いたのかを

問えば、恐ろしい返事が返ってきた。

「わたしのブレーンの中には、千里眼の持ち主が

10人いて、彼らがあなたを褒めているの。だから

日浦さんに開発を頼もうと言う流れになったの。」

というではないか。10人の千里眼がいるなんて、

なんだか嫌な感じがしたものだ。

「では、約束の300万円をください」と言うと、

これまた凄い返事なのだ。

「彼らが集まり、あなたの脳をすべてスキャンして、

アイデアを全部もらったから、300万円のお金は、

一円たりとも払いません。」といった。

はあー!?日浦の脳をスキャンした?だから金は

払わないって?そんなへ理屈が通るものなのか?

貰わないと困るんだよなあ。。。

今回だけは、簡単に引きさがることなく、交渉が

必要だ。そう思った。

 

おばさんは、300万円を払わない言い訳を何だかんだ

と言いながら、今度は、近くの古いホテルに連れて

いかれた。そこは、もとは観光で賑わっただろうが、

今ではレストランも営業していないのだ。この寂れた

ホテルの一室に住めと言うのだ。そして月給30万円、

レンタカーの車を与える、食事は、治療院の従業員と

一緒だと。要は、三井温熱の社員になれという命令

なのだ。そのために約束した300万円を払わないのだ。

やばい処へ来てしまったな。。。紹介者もグルか。

そしてまた、おばさんの娘と、従業員が家を造るから、

その設計管理料も直ぐ手に入ると言って、バーチャルな

餌をぶら下げるおばさん。日浦は、釣り上げられる

ハゼじゃあないぜ。「ウソつきを信じるバカはいない

でしょ?」と日浦。

「行く当ても、お金も無いでしょ?」とおばさん。

「あなたは、ここへ来るように誘導されたの。だから

あなたが生きる道は、ここしかないの。」そう言った。

おばさんの言い分、聞いているだけでも腹が立つわ。

詐欺師から飯を食わせてもらう?それ最悪最低。

古めかしいホテルから治療院に戻ると、おばさんに

電話が入ったのだ。かの千里眼グループのボスから

かかって来たと言うから、段取りがよすぎるのでは?

そのボスとやらは、国家権力の中枢にいて、100億を

超える資産があり、国会議員も官僚さえも動かせると

言う。そうかい。オイラは、権力など嫌いなんだ。

益々やばい処へ来たな・・・

ボスとやらは、日浦が社員にならないことを見抜いた

のだろう、社員になれば、という条件付きであるが、

大きな餌をぶら下げるのだった。それは、国の再開

発事業において、福島県に100個の住宅を造るので、

そこへ日浦の住宅工法を採用すると言い、必要資金は

幾らでも出すとさえ言い切った。もし、それが本当なら

素晴らしいと、一種の感動さえ覚えたものだ。ボスの

次の言葉によって。「君は、苦労に苦労を重ねたけれど、

ようやく報われる時がやって来たのだ」という言葉。

 

そして、開発中の電気こては実に素晴らしいと褒めた

上で、頭の中に在る別の技術は何という名称なのかと、

おばさんを通して聞いて来た。しつこく頭の中に在る

技術の名称を聞くので「瞑想マシーン」だと答えると、

すぐさま「その権利、なんぼで売るんや!」と大きな

声を出していたボス。千里眼なら瞑想マシーンの凄さを

知ることが出来る。

おばさん曰く「ボスが幾らで売るかと聞いているよ」

というから、「嘘つきには売らないよ」と言った。

それが当たり前だろう。

 

早い話し、三井のおばさんが日浦を求めたと言うより、

そのボスが日浦を必要としていたことを知る。だが

千里眼のボスに対し、誰が日浦の情報を流したのか。

それは、何とかの名水を売る中野区の某社長らしい。

当てにした300万がないと帰れない。しかしおばさんは

300万円を払わない。でも、ボスは日浦を必要とした。

そこで日浦は言った。「欲深きおばさん、ボスの要求を

満たすには、あなたに出来ることがある。いま直ぐに

10万円を払い、近々にボスに会わせて欲しい」というと、

その場で、10万円は出してくれたので「あと290万円の

貸しだね」といって、帰ろうとした。ところが、帰る

ために玄関に立ったとき、絶句するようなおばさんの

言葉があった。

「あなは頑固者。人の親切に応えるものよ。そうすれば

幸せになれるの」というではないか。払うと約束した

300万円を払わず、わたしの奴隷になれと命令することが、

親切だって?!そんな おばさんの言う事を聞かないから、

頑固者だって?この人たちは、いったいどれだけの人を

騙し、利用して来たのだろうか。。。 

それは、茹るような暑い暑い夏の午後だった。

空しい思いを抱きて新宿へ戻り、区役所勤務の彼を呼び

出して、事の仔細を聞き出すことにした。